天満つる明けの明星を君に②
その後朔から密命を受けた芙蓉は、庭を掃いている雛乃を目で追い、縁側を行ったり来たりしていた。

忙しなく手にしている扇子を鳴らしつつ、気さくに話しかけられない自身の気難しい気性を悔やみつつ、それをくすくす笑いながら居間で茶を飲んでいる柚葉を睨んだ。


「柚葉、あなたが話しかけなさいよ」


「主さまから頼まれたのは芙蓉ちゃんでしょ?私はもう雛乃ちゃんとちょっと仲良しになれたから、今度は芙蓉ちゃんの番だよ」


「あなた私の気性を知っているでしょう?友と呼べる存在なんてあなた位しか居なかったんだから!私にとってはとっても難しいことなのよ」


芙蓉はとてつもない美女で近寄りがたく、しかも目の色が赤で、本人の言うとおり気性にも問題があった。

朔はそこを気に入って愛しているわけだが、本人にとっては大問題。

雛乃と親しくなりたいのに気さくに話しかけることができずひと月以上も経ってしまい、朔に背中を押されて意を決したものの――未だ話しかけられず。


「あ、ほら芙蓉ちゃん、今!雛乃ちゃんがこっち見てる!」


「な、ななななんですって」


箒を柱に立てかけて休憩を取るため縁側に座った雛乃が視線を感じて芙蓉を見ていた。

雛乃もまた人見知りのようであちらから話しかけてくる様子はなく、視線が合ったふたりがもじもじ。


「芙蓉ちゃん…」


「あ、あのっ!雛乃さん、こっちへ来て一緒にお菓子食べない?」


「あ…い、いいんですか?お忙しいんじゃ…」


「全然忙しくないわよ、さあ、こっちへ来て」


自分自身最高の笑顔を見せると、雛乃は一瞬ぽうっとなってこくんと頷いた。

芙蓉が得意げに鼻を鳴らし、柚葉は肩を揺らして笑う――次なる密命をこなすため、芙蓉と柚葉は雛乃を取り囲んで菓子を頬張った。
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