天満つる明けの明星を君に②
「ほんっとうに!ごめんなさい…」


逃げた雛乃を追いかけて雛乃の私室まで押し掛けた天満は、再び正座をして頭を深々下げた。

天満に背を向けていた雛乃の身体からは怒りが滲んでいて、天満の口は開いたり閉じたり忙しない。

――そもそも本当に記憶がなく、もし兄たちの所業であればさすがに許しはしないと思っていたのに…なんのことはない、犯人は自分だったのだ。


「雛乃さん…本当に…僕なんだよね…?」


「…はい…」


「いくら寝ぼけていたとしても、嫁入り前の女の子に噛みつくなんて許せないことだ。ものすごく反省してます…ごめんなさい」


天満は誠実で、まっすぐで、その言葉が嘘偽りないことは反省しきりの声色で分かる。

それでも許せないと思うのは、天満が覚えていないから。

覚えていなくてもいいと思う反面、覚えていてもほしかった。

相反する感情に揺さぶられていた雛乃は、ぴんと背筋を伸ばして声を張り上げた。


「別に!嫁入り前と言っても私は生涯お嫁に行くつもりはありませんので!」


「え…そう…なの?」


思いもよらぬ反応に思わずぽかんと口を開けた天満は、それは困ると思いつつ正座したままもそりと雛乃に近付いた。


「だって私…男の方に触れられるのがものすごく嫌だから…」


そういえば意図せず雛乃に噛みついた時、嫌がらなかったのかと気になった天満は、頬をかいてぼそり。


「僕も一応男だけど…大丈夫だった…?」


「……はい」


「それは…男として見られてないっていうことなのかな?」


「…さあ…分かりません」


――意識されていることは、雛乃の時々見せる過剰な反応で分かっていた。

自分が触っても大丈夫――そう分かれば、話は早い。


「ちゃんともっと反省したいから、僕が噛みつくまでの経緯を具体的に詳しく教えてもらえるかな」


「え…っ」


肩越しに振り返った雛乃の困り果てている顔を見て、口元が綻びそうになって慌てて表情を引き締めた。
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