天満つる明けの明星を君に②
偽装の関係
天満には愛した妻が居る――
妻を亡くしてもう随分長い時が経っているとしても、彼を縛っているのは、永遠に消えない亡者の影だ。
…こうして抱きしめてくれているのだから、少しは自分を好いてくれているのかもしれない。
けれど、とてつもない身分違い。
自分は捨て子で両親の顔も知らず、かたや天満は鬼族の始祖の家系で、三男と言えどいずれは家柄の良い妻を貰って家庭を築くのだろう。
「いい匂いがする」
「……天様も…」
「さっきの答えだけど…聞きたい?」
――聞きたいような、聞きたくないような、どちらかというと不安を覚えた雛乃は、首を振って天満の胸に顔を埋めるようにして俯いた。
「同情して下さっているんですよね」
「同情?それは違うよ。僕は君を守りたいんだ。傍に居て、ありとあらゆるものから守りたいんだ」
「でも天様は奥様を愛してらっしゃるじゃないですか。そんな…勘違いさせるようなこと、言わないで下さい」
…君を待っていたんだよ。
そう言いたいのをぐっと堪えた天満は、嘘偽りない思いで雛乃の肩を抱いて顔を上げさせた。
「愛しているよ。今もずっと」
「…」
まるで自分に言われたような気分になった雛乃は、心がふわふわしつつもちりちりして、天満の胸を押して離れようとした。
だが天満は雛乃を離さずその目を覗き込み、星のような煌めきを湛えた目で訴えた。
「僕はもう、誰かを愛しちゃいけないと思う?」
「…そんなこと…分かりません…」
「…守らせてほしい。今はそれだけ、許してもらえたらいい。どう?」
少し傷ついたような表情にずきんと心が痛んだ雛乃は、‟好きです”という言葉を無理矢理飲み込んでようようと頷いた。
「良かった。もうちょっと…このままでもいい?」
「…はい…」
好きです。
好きです、あなたのことが。
私のことは遊びでも、構わない。
あなたのことが、好きです――
妻を亡くしてもう随分長い時が経っているとしても、彼を縛っているのは、永遠に消えない亡者の影だ。
…こうして抱きしめてくれているのだから、少しは自分を好いてくれているのかもしれない。
けれど、とてつもない身分違い。
自分は捨て子で両親の顔も知らず、かたや天満は鬼族の始祖の家系で、三男と言えどいずれは家柄の良い妻を貰って家庭を築くのだろう。
「いい匂いがする」
「……天様も…」
「さっきの答えだけど…聞きたい?」
――聞きたいような、聞きたくないような、どちらかというと不安を覚えた雛乃は、首を振って天満の胸に顔を埋めるようにして俯いた。
「同情して下さっているんですよね」
「同情?それは違うよ。僕は君を守りたいんだ。傍に居て、ありとあらゆるものから守りたいんだ」
「でも天様は奥様を愛してらっしゃるじゃないですか。そんな…勘違いさせるようなこと、言わないで下さい」
…君を待っていたんだよ。
そう言いたいのをぐっと堪えた天満は、嘘偽りない思いで雛乃の肩を抱いて顔を上げさせた。
「愛しているよ。今もずっと」
「…」
まるで自分に言われたような気分になった雛乃は、心がふわふわしつつもちりちりして、天満の胸を押して離れようとした。
だが天満は雛乃を離さずその目を覗き込み、星のような煌めきを湛えた目で訴えた。
「僕はもう、誰かを愛しちゃいけないと思う?」
「…そんなこと…分かりません…」
「…守らせてほしい。今はそれだけ、許してもらえたらいい。どう?」
少し傷ついたような表情にずきんと心が痛んだ雛乃は、‟好きです”という言葉を無理矢理飲み込んでようようと頷いた。
「良かった。もうちょっと…このままでもいい?」
「…はい…」
好きです。
好きです、あなたのことが。
私のことは遊びでも、構わない。
あなたのことが、好きです――