天満つる明けの明星を君に②
突然突拍子もないことを言い出した天満を食い入るように見つめた面々だったが、天満は涼しい表情で形の良い唇の口角を上げて笑んだ。


「文字通り、雛乃さんと良い仲なんです。そちらとはもう後腐れがないはずですね。あなたには申し訳ないですが、そういうことです」


「そ…そんな馬鹿な…!雛乃は一切男とは触れ合ったことがないはず…!」


「証拠をお見せしましょうか」


天女と見紛う微笑で吉祥に笑いかけた輝夜は、朔に同意を求めて目配せをした。

…確かに雛乃に触れることができるのは天満だけだし、けれど――雛乃がこんなことになっているのを知っているのだろうか?


「天満、雛乃を連れて来い」


「はい」


天満は、吉祥が訪れるにあたって雛乃を屋敷の奥深くに隠していた。

すっと立ち上がって長い廊下を歩きながら、雛乃に同意を得ずこんなことになってしまってどう説明しようかと考えていたが、雛乃を妻にしたいのは本当だし、吉祥に渡したくはない。

吉祥と自分、どちらを選ぶのか――不安はなかったが、自信もそれほどなかった。


「雛乃さん、入るよ」


外から声をかけると襖が開き、不安そうな顔をした雛乃が顔を出した。

にこりと笑った天満は部屋の中に通してもらい、真っ直ぐ雛乃を見据えた。


「僕を信じてくれる?」


「え…どういう…意味ですか…?」


「今、吉祥が来てる。意地でも君を諦めないっていう感じだった。だから君は僕の許嫁だと宣言してきた」




……許嫁?

ぽかんと口を開けた雛乃の可愛らしい表情に緊迫した空気が吹き飛んだ天満が思わず吹き出すと、じわじわその意味を理解した雛乃が後退りをした。


「許嫁…?私が…天様の…?」


「成り行き上、仕方がなかった。あの場で未婚なのは僕だけだったし、それとも…吉祥と遠野に帰りたかった?」


「っ!嫌…!嫌です…!」


悲痛な声を上げた雛乃の肩を抱いた天満は、震える指を擦り合わせてなんとか恐怖に耐えようとしているその様を見て静かに静かに、話しかけた。


「僕を信じて。君を守ると誓ったんだ。その誓いを破りはしない」


「……はい…」


同意を得た。

袖を握ってきた雛乃の頭を撫でた。

そしてふたりは、吉祥たちの居る部屋へ戻った。
< 88 / 213 >

この作品をシェア

pagetop