天満つる明けの明星を君に②
「天様…後でちゃんと詳しく説明して下さいね」


「うん、もちろん。だから雛乃さんもこの部屋に入ったら僕の言うことに全て肯定してほしい。なるべく平静を装って」


頷き合ったふたりは、部屋の中に入った。

先に天満が入り、続いて雛乃がぴったりその後をくっつくようにして入ると――吉祥が腰を浮かして目を輝かせた。

その態度は雛乃に真に恋をしているように見えたが…男とは距離を取って近付きもしない雛乃があんなに密着して天満にくっついているのが気に入らず、細い目を尖らせた。


「雛乃、何故遠野を出た?お前は私の嫁として鬼脚の家に入る予定だったろうが」


「…」


「当初はその予定だったとしてもすみません、僕がもう手を出してしまったので」


悪気もなくにこっと笑った天満の透き通るような美貌に一瞬吉祥は呆けそうになりながらも、大きく咳払いをして首を振った。


「そんなはずはない!雛乃は男嫌いで…」


「そうなんですか、でももう何度も閨を共に…」


「や、やめて下さい!恥ずかしい…!」


天満の背中に隠れて顔を出さない雛乃が、天満の背中を叩いたり袖を引いたりしているのが見えた。


――雛乃が男に触れているという事実は吉祥を打ちのめして絶句させて詰め寄ろうと立ち上がりかけた時、背後に悪寒を感じて恐る恐る振り返ると…


「誰が主さまの許可なく立ち上がろうとしてるんだ?座れ」


「は…は、い…」


目が明るい青に輝く雪男の凄みに圧倒された吉祥が腰を抜かすようにしてまた座ると、朔は腕を組んで天満の背中を突きまくっている雛乃に問うた。


「お前は遠野に戻らず天満の嫁になる…そういうことだな?」


「!は…はい…」


吉祥がぎりりと歯ぎしりをした音が聞こえた。

だが雛乃は吉祥の顔を見ることもせず、天満の身体に身を寄せてくっついていた。


…偽装の関係だとしても、嬉しかった。
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