天満つる明けの明星を君に②
引き下がるわけにはいかなかった吉祥は、なんだか和やかな雰囲気になっているのが許せず、雛乃を睨みながら胸元に手を入れると、一通の文を取り出した。
「…主さまにこれを」
差し出した文を雪男が受け取って朔に手渡し、朔がざっと目を通してちろりと吉祥を見た。
畏怖に捉われて朔と目を合わすこともできない吉祥が押し黙っていると、座椅子に身体を預けた朔はその文を輝夜に渡して低い声で囁いた。
「これには狗神刑部と鬼脚の当主の連名で、幽玄町で研鑽を積ませてほしい、と書いてある。当主はともかくお前の家は狗神刑部の弱みでも握っているのか」
「滅相もございません、狗神刑部殿と父は知古の仲にて若輩者の私に修行して来いと送り出して下さったのです」
狗神刑部の一族は古くから存在する大物の狸一家であり、鬼頭家とも懇意にしていたが――まさかこんな手に打って出てくるとは思っていなかった朔は、相変わらず静かに控えている輝夜に助言を求めた。
「どう思う」
「別に構わないでしょう、むしろ滞在することで弟と雛乃さんの仲睦まじい様を見てもらった方がいいかもしれませんね」
俄かに顔を輝かせた吉祥だったが、雛乃の表情が険しいことに気付いて文句を言おうとしたものの、天満が庇うように手を出してふわりと微笑んだ。
「そうですね、あなたには目の毒でしょうが、それもいいんじゃないかな」
「部屋を用意する。説明は雪男から聞け。…言っておくが、贔屓目抜きで俺の弟はいい男だ。心砕かれる前に遠野に戻った方がいい」
見向きもせずそう言って部屋を出た朔の後を輝夜がついて行き、雪男は天満たちにも部屋を出るよう促して肩を竦めた。
「まあなんだ、ものすごく見たくないものを見ることになる。それを覚悟の上でここに滞在することを決めたんだから、四の五の文句は言うなよ」
――天満が伸ばした手を雛乃が自然に取り、ふたりは部屋を出て行った。
…本当に男に触れている――
目の前が真っ暗だったが、恋心を抑えられない吉祥は、目をぎらつかせながらその光景に耐えた。
「…主さまにこれを」
差し出した文を雪男が受け取って朔に手渡し、朔がざっと目を通してちろりと吉祥を見た。
畏怖に捉われて朔と目を合わすこともできない吉祥が押し黙っていると、座椅子に身体を預けた朔はその文を輝夜に渡して低い声で囁いた。
「これには狗神刑部と鬼脚の当主の連名で、幽玄町で研鑽を積ませてほしい、と書いてある。当主はともかくお前の家は狗神刑部の弱みでも握っているのか」
「滅相もございません、狗神刑部殿と父は知古の仲にて若輩者の私に修行して来いと送り出して下さったのです」
狗神刑部の一族は古くから存在する大物の狸一家であり、鬼頭家とも懇意にしていたが――まさかこんな手に打って出てくるとは思っていなかった朔は、相変わらず静かに控えている輝夜に助言を求めた。
「どう思う」
「別に構わないでしょう、むしろ滞在することで弟と雛乃さんの仲睦まじい様を見てもらった方がいいかもしれませんね」
俄かに顔を輝かせた吉祥だったが、雛乃の表情が険しいことに気付いて文句を言おうとしたものの、天満が庇うように手を出してふわりと微笑んだ。
「そうですね、あなたには目の毒でしょうが、それもいいんじゃないかな」
「部屋を用意する。説明は雪男から聞け。…言っておくが、贔屓目抜きで俺の弟はいい男だ。心砕かれる前に遠野に戻った方がいい」
見向きもせずそう言って部屋を出た朔の後を輝夜がついて行き、雪男は天満たちにも部屋を出るよう促して肩を竦めた。
「まあなんだ、ものすごく見たくないものを見ることになる。それを覚悟の上でここに滞在することを決めたんだから、四の五の文句は言うなよ」
――天満が伸ばした手を雛乃が自然に取り、ふたりは部屋を出て行った。
…本当に男に触れている――
目の前が真っ暗だったが、恋心を抑えられない吉祥は、目をぎらつかせながらその光景に耐えた。