天満つる明けの明星を君に②
「ちょっとそこに座って下さい」


雛乃の部屋に連れ込まれた天満は、頬をかきながら怒り顔の雛乃の前で正座した。

気持ちの整理がついていないのか、雛乃は数分沈黙していたが――突如怒涛の如く話し始めた。


「第一私が天様のい…許嫁というのも納得がいきませんし、若様がこのお屋敷に滞在するなんて私…私…無理です!」


「うん、それは本当にごめん。でもあの吉祥っていう男は君を諦めそうになかったし、何か策がありそうな顔をしてたし……怒ってる?」


上目遣いにちらちら見てくる天満の反省した様に徐々に怒りが萎んできた雛乃は、もじもじしながら俯いた。


「私は…この先どうすれば…」


「簡単だよ。吉祥の前で僕らがいちゃいちゃすればいい」


――いちゃいちゃ?

意味が分からず呆けた顔をしている雛乃が混乱状態に陥ると、天満は思わず吹き出してしまって慌てて片手で口元を押さえた。


「いやごめん、いちゃいちゃっていうのはつまり…そうだなあ、例えば君を抱きしめたり…」


「抱きしめたり!?」


「あともっとすごいことをしたり…」


「もっとすごいこと!?」


男性経験のない雛乃にはそれ以上の想像ができず、青ざめたり赤くなったり目まぐるしく顔色が変わっていて、また天満は吹き出してしまって肩を震わせて俯いた。


「うん、まあでも僕に任せてくれればいいから。約束した通り、君を守り抜く。吉祥には僕らが熱い関係だっていうのを見せつけて早々に帰ってもらおう。ね?」


…熱い関係――

天満に触れられるのは苦ではないし、むしろ…嬉しい。

だがそれを本人に気付かれてはならず、ようようと頷いた雛乃だったが、吉祥への不安はぬぐい切れなかった。

あの男は絶対何かをしでかす――

確信があった。
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