天満つる明けの明星を君に②
その夜、百鬼夜行に出る前の朔から呼び出された雛乃は、衝撃的な発言をされてまたもや固まった。


「吉祥からの疑いをなるべく減らすために、天満と同じ部屋で過ごしてもらいたい」


「え…え…?え、え、えっ!?」


事態が飲み込めず何度も嗚咽のような驚きの声を上げる雛乃があまりにも面白くてまた吹き出しそうになった天満だったが、その提案は天満にとっても驚きのものであり、そしてありがたいものだった。

雛乃との距離をぐっと縮めることができるかもしれない――

無理矢理迫るつもりはないけれど、自分のことをもっと知ってほしいという欲求が高まり続けていた。


「ぬ、主さま…それは無理です…!」


「何故無理だと思う?」


朔と対面すると、その圧倒的な存在感と美貌に顔が上げられない雛乃が口ごもり続けていると、輝夜がさらりと最も効果的な助言をした。


「あなたを独りすると、吉祥が夜這いをしに部屋へ侵入してくるかもしれません。ですが天満が傍に居ればそれが防げます。許嫁という設定ですから、あなたたちが離れていると吉祥は必ず疑いますよ」


「それは…それは困ります…」


「だから同じ部屋にと言っている。どうしても嫌だというのであれば違う案を考えるが」


好いた男と同じ部屋で、ほぼ一緒…

恋心を知られぬよう苦心しているのに、これではいつか好きだと叫んでしまうかもしれない――

――隣の天満を見上げると、にこりと笑いかけられて、この男はさして気にも留めていないのだなと思うとなんとなく腹が立った。


「だい、大丈夫です。それでお願いします」


「よし、じゃあ天満の部屋に移動してくれ。荷物は後で運ばせる」


なんだかすごいことになってきている――

雛乃の表情は目まぐるしく、皆が忍び笑いを漏らしてそれを見ていた。
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