天満つる明けの明星を君に②
「何よあれ…私たちを見て色目を使ってきたわよ。あんな不細工な男相手にするものですか」


「芙蓉ちゃん…そりゃ主さまに比べれば雲泥の差だけど、お屋敷を出たらそこそこな部類な気もするけど」


「じゃああなた輝夜さんと出会ってなかったら好きになっていたというわけ?」


「それはないです」


結局はふたりともひどいことを言っていたのだが、そこに天満の部屋に向かおうとしていた暁が通りがかって芙蓉の膝に抱き着いた。


「母様、雛ちゃんのお部屋が空っぽだったよ」


「ああ、まだ聞いていなかったのね?雛乃さんは天満さんと同じ部屋になったのよ」


「どうして?」


「ふたりに直接聞いてはどうかしら」


こっくりと頷いた暁は、途中庭に見慣れないふたり組を見つけたものの、声をかけるでもなく真っ直ぐ天満に部屋に向かって問答無用で襖を開けた。


「天ちゃん、雛ちゃんと一緒に住むの?」


「ああ来たね、説明をするからおいで」


朔や芙蓉よりも天満と過ごす時間の長い暁は、天満に断りなく自由に部屋に入って来る。

入り浸って怒られることもあるが、基本天満の傍に居ることを許されている暁は、火鉢の前で微笑んでいる天満の膝に上がり込むと、雛乃と天満の顔を交互に見て首を傾げた。


「どうして?」


「屋敷の中に見慣れないふたりが居るのを見た?」


「うん、おじいちゃんと目の細い男の人」


「目の細い男の方はね、雛乃さんをお嫁にしようと思ってここにやって来たんだよ」


え、と小さく声を上げた暁は、雛乃が困った顔をしているのを見て表情を険しくした。

雛乃には天満の嫁になってほしいと思っていたし、雛乃になら天満をあげられると強く思っていた。


「雛ちゃんは嫌なの?」


「はい、嫌です」


「ふうん…じゃあ私があのふたりを近付けないようにしてあげるから大丈夫だよ!」


ありがとう、と笑って頭を撫でてくれた雛乃の手の優しさにうっとり目を閉じた。

ふたりの仲を引き裂く者は許さない――

にこにこしながらも、燃え滾っていた。
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