天満つる明けの明星を君に②
遠くから珍客がやって来たと聞いて遊びに来た晴明は、朔が百鬼夜行から戻って来る時を見計らって縁側で呑気に茶を啜っていた。

そこに吉祥と爺が通りがかると、吉祥は足を止めて烏帽子と狩衣姿の晴明を居て何者であるかすぐ察して背筋を正した。


「安倍晴明殿とお見受けする」


「如何にも。ではそなたが鬼脚の御嫡男か」


「はい。で…何故晴明殿がこちらへ?」


「孫たちの様子を見に来ただけだよ。私の玩具が旅に出て留守故、後見人として様子を見に来ている」


――晴明の言う‟私の玩具”が何か考えた。

そういえば百鬼夜行の当主は代が変わると先代は全てから解放されて旅に出ると言われている。

先代は冷酷無慈悲で冷徹な男で、その恐ろしい男を‟玩具”と言わしめる晴明の存在にまたぞっとして距離を置いて縁側に腰かけた。


「そちらは何をしに来たのかな?」


「俺…いえ、私は我が領地に住む娘を引き取りに来ただけのことで…」


「その娘とは確か天満の許嫁では?」


朔からの文でそのようなことになっているとすでに知っていた晴明は、狐顔の切れ長の目でちらりと吉祥を横目で見た。


「い、いえ、あの娘は私が先に…」


「私が聞いている話と違うね。その娘と天満はもう深い仲で横入りできぬほど熱いと聞いているけれど」


――結局吉祥は雛乃がどの部屋に居るのかまだ知らず、晴明が釘を刺してきていることに歯噛みしていると、晴明の来訪を知った天満と雛乃が揃って居間へ入って来た。


「お祖父様」


「ああ天満、元気そうだね。そちらが許嫁の娘か。お初にお目にかかる」


「は、はじめまして」


安倍晴明の存在は妖の中でも特別で、広く知れ渡っていた。

鬼頭家が絶大な信頼を寄せる男――

畏まって正座して頭を下げた雛乃の顔を見て目を細めた晴明は、懐かしい思いで天満と雛乃の邂逅に胸を摩った。
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