天満つる明けの明星を君に②
どこか懐かしむような表情で見つめてくる晴明の優美な微笑に雛乃は違和感を覚えた。

会うのははじめてのはずなのに、何故そんな感傷的な表情をするのか――

吉祥が眼前に居る恐怖よりもそちらの方が気になっておずおずと晴明を目を合わせた雛乃は、天満の手が肩に乗ると、訴えるような目で見つめた。


「お祖父様は特別な力をお持ちだから、何か見えたのかも」


「あ、あの…?」


「ああいや、これは失礼。そなたの顔をどこかで見たような見てないような気がしてね。もしかしたら私の娘に似ているのかな」


私の娘とはつまり息吹のことであり、そう言われてみると似ているかもと思った天満は顔を輝かせてそれに同意した。


「そうだ、僕の母様にちょっと似てるのかもしれない」


「天様の…お母様にですか?」


「とっても朗らかで明るくて可愛いんだよ、僕たちの母様は」


自分で褒められたようで顔を赤くした雛乃だったが、吉祥の刺すような視線に気付いて天満の背中に隠れた。


「雛乃…私は何が何でもお前を連れ帰るからな」


「おっと、私の前で不遜な話はせぬ方がいい。いくら鬼脚の者と言えど、私が最優先で守るべきものは鬼頭であり、私の孫たちなのだからね」


じわりと殺気を滲ませた晴明の指の形が印を結んでいたため、硬直してしまった吉祥は背後に控えていた爺から諭されてぐっと言葉を飲み込んだ。


いつの間にその場に居たのか、雪男の姿が在り、白狐であり九尾の銀の姿が在り、気が付いたら遠くから取り囲まれていた。


「そなたは真の鬼の棲み処に足を踏み入れているのだよ。何が起こり、何をされてもいいと覚悟を決めているのだろう?」


「そ、それは…」


吉祥は冬場にも関わらず全身汗に濡れ、喉が引きつって言葉のひとつも出てこなかった。

いつ命を奪われてもおかしくない――そんな感覚に捉われて、身を縮めた。
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