天満つる明けの明星を君に②
天満と同じ部屋で寝たはじめての日は、衝立を使って寝たため寝顔を見れないようにした。

何もされないと分かっていても緊張してほとんど寝れなかったが…天満はすうすうとすややかな寝息を立てていて、意識しすぎている自分が恥ずかしくなってまた眠れなかった。

着替えをするのも衝立越しにしたが、それも意識しすぎて手がもつれる始末だったが、天満は何の気概もなく着替えていた様子だったため、沸々と怒りのようなものを覚えていた。

天満には過去妻が在り、着替えなど恥ずかしがるはずがない――

なんとかそう納得しようとしていたが、亡くしているとはいえ妻の存在が在ったことについてはしこりのようなものを感じていた。


「吉祥は懲りてない様子だったね」


「はい…もう…早く帰ってほしい…」


「お祖父様が言った通り、ここは鬼の棲み処だからそうそう悪いことはできないよ。でも君が僕の部屋と一緒だと知るとどうなるかな…暴れるかな?」


「若君は癇癪持ちなので、何をするか分かりません。あまり刺激しないで下さい…」


茶を飲みながらふたりのやりとりを見ていた晴明は、かつてのふたりを思い返して笑みが止まらなかった。

未練を残して魂だけの存在になった雛菊とふたりきりで会話をした晴明は、天満の行く末を強く案じていた。

鬼族は特に愛した者を失うと、募る想いの業火に身も魂も焼かれて死んでしまう者が多い。

天満もそうなるのではと皆が案じて今まで接してきた中で、亡くした娘が転生した暁の存在は、天満をなんとか今生に繋ぎ止めていた。

そして、雛菊が転生した雛乃の存在――もう盤石のように思えたが…


「吉祥とかいうあの男は、誰かさんを彷彿させるね」


ぼそりと呟いた晴明の声が耳に届いた天満は、じっとり頷いて庭に目を遣った。
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