天満つる明けの明星を君に②
その後百鬼夜行から朔が戻って来ると、出迎えにやって来た芙蓉と柚葉は雛乃の手を取って女同士で談笑しにその場を離れた。

それを見送った朔は、天満に向き直って意地悪げににやりと笑った。


「で、お前はよく眠れたのか?」


「眠れるわけないじゃないですか。衣擦れの音ひとつで目が冴えてもう全然眠れない」


「お前も健康な男というわけだな。お祖父様、天満がいつ雛乃を襲うか賭けませんか?」


「いいねえ、すぐ襲うに一票」


「俺もそっちに一票。賭にならないじゃないですか」


「あの…ふたりとも、僕で遊ばないで下さい…」


実際の所、天満もあまり自信がなかった。

衣擦れの音だけでも目が冴えるのだから、着替えている時などは本当に意識を逸らすのに必死で、万全の手入れをしている妙法と揚羽のふた振りの刀にさらに手入れをしようとして、‟必要ない”と妙法に断られて消沈。

寝ている時もこちらの様子を窺っているような気配を感じる度に寝ている振りをして寝息を立ててみたものの、一睡もできずに朝を迎えて現在に至っていた。


「お前が実際手を出せばこの話はすぐ纏まる。そういう雰囲気じゃないのか?」


「どうでしょう…好かれている気はしますけど、勘違いだったらものすごく恥ずかしいし…」


「そなたが好きだと告白すればよい話なのでは?」


「そんな簡単な話じゃないんです。生涯嫁には行かないとか言ってるし」


「ふむ、そなたの嫁になりたいと思わせればいいだけの話。男らしいところを見せつけていけばよい」


だからそんな簡単な話じゃない、と言いかけたものの、雛乃が一睡もしていないことには気付いていた。

互いに意識しまくっている――

もうひと段階踏み込まなければ、と思っているが、恋愛経験の乏しい天満にはこれからどうすれば分からず、ふたりの助言を右から左に聞きながら困りまくっていた。
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