食べたくない私 と 食べさせたい彼【優秀作品】
唐揚げ
その日も、いつも通り、朝からロケに出る。
今日は、絶品の唐揚げが食べられると評判の小料理屋。
昼の営業に差し障りのないよう、朝10時に伺う約束になっている。
《 家庭料理 由庵 》
そう書かれた暖簾の奥の引き戸をカラカラっと開けて、石井さんが暖簾をくぐる。
「こんにちは。OGケーブルテレビです。
今日はよろしくお願いします」
「はい。
こちらこそ、よろしくお願いします」
女将さんの声が聞こえた。
「まず、外観から撮らせていただきますね」
挨拶を済ませた石井さんが、引き戸を閉め、カメラを担ぐ。
「じゃ、堀川、回すぞ?」
カメラが回り、私はリポートを始める。
「皆さん、こんにちは。堀川です。
今日は、視聴者さんから情報をいただいて、
家庭料理 由庵さんに来ています。
唐揚げが絶品とのことなので、とても
楽しみです。」
私はマイクを持ったまま、先程の引き戸を開けた。
「こんにちは。初めまして。
わたくし、OGケーブルテレビの堀川と
申します」
そう言って、私は一瞬固まった。
カメラに背中を向けてて良かった。
一瞬で仕事であることを思い出した私は、気を取り直してリポートを続ける。
「こちらでは、絶品の唐揚げが食べられると
聞いてきたのですが… 」
「はい。
元々、煮物中心の家庭料理をお出し
してたんですが、すぐそこの工場の男性
職員の方々が大勢いらっしゃってくださる
ものですから、喜んでくださるものをと
考えて、唐揚げなどの揚げ物をお出しする
ようになったんです」
インタビューを終えて、唐揚げ定食を用意してもらう。
ご飯と豚汁、唐揚げ、キャベツの千切り、お漬物。
見た目はごく普通の唐揚げ定食。
そこに、定食のお盆とは別に小鉢がひとつ置かれた。
「こちらは普段は定食には付いてないん
ですが、よろしければどうぞ」
小鉢には筑前煮が入っていた。
私は、込み上げるものを堪えて笑顔を作る。
「ありがとうございます。
いただきます」
私はまず、唐揚げを口に運ぶ。
とても懐かしい味がした。
「すごくおいしいです。
外はサクサクで、中は肉汁がジュワッと
溢れるように口いっぱいに広がって」
私は、懸命にリポートをする。
「筑前煮も、おいしいですね。
毎日食べたくなる優しい味がします」
私は一つ一つ噛み締めるように味わって食べる。
「ご馳走様でした」
「はい、カット!」
石井さんは、カメラを担いだままカットの声を掛ける。
今日は、絶品の唐揚げが食べられると評判の小料理屋。
昼の営業に差し障りのないよう、朝10時に伺う約束になっている。
《 家庭料理 由庵 》
そう書かれた暖簾の奥の引き戸をカラカラっと開けて、石井さんが暖簾をくぐる。
「こんにちは。OGケーブルテレビです。
今日はよろしくお願いします」
「はい。
こちらこそ、よろしくお願いします」
女将さんの声が聞こえた。
「まず、外観から撮らせていただきますね」
挨拶を済ませた石井さんが、引き戸を閉め、カメラを担ぐ。
「じゃ、堀川、回すぞ?」
カメラが回り、私はリポートを始める。
「皆さん、こんにちは。堀川です。
今日は、視聴者さんから情報をいただいて、
家庭料理 由庵さんに来ています。
唐揚げが絶品とのことなので、とても
楽しみです。」
私はマイクを持ったまま、先程の引き戸を開けた。
「こんにちは。初めまして。
わたくし、OGケーブルテレビの堀川と
申します」
そう言って、私は一瞬固まった。
カメラに背中を向けてて良かった。
一瞬で仕事であることを思い出した私は、気を取り直してリポートを続ける。
「こちらでは、絶品の唐揚げが食べられると
聞いてきたのですが… 」
「はい。
元々、煮物中心の家庭料理をお出し
してたんですが、すぐそこの工場の男性
職員の方々が大勢いらっしゃってくださる
ものですから、喜んでくださるものをと
考えて、唐揚げなどの揚げ物をお出しする
ようになったんです」
インタビューを終えて、唐揚げ定食を用意してもらう。
ご飯と豚汁、唐揚げ、キャベツの千切り、お漬物。
見た目はごく普通の唐揚げ定食。
そこに、定食のお盆とは別に小鉢がひとつ置かれた。
「こちらは普段は定食には付いてないん
ですが、よろしければどうぞ」
小鉢には筑前煮が入っていた。
私は、込み上げるものを堪えて笑顔を作る。
「ありがとうございます。
いただきます」
私はまず、唐揚げを口に運ぶ。
とても懐かしい味がした。
「すごくおいしいです。
外はサクサクで、中は肉汁がジュワッと
溢れるように口いっぱいに広がって」
私は、懸命にリポートをする。
「筑前煮も、おいしいですね。
毎日食べたくなる優しい味がします」
私は一つ一つ噛み締めるように味わって食べる。
「ご馳走様でした」
「はい、カット!」
石井さんは、カメラを担いだままカットの声を掛ける。