食べたくない私 と 食べさせたい彼【優秀作品】
スムージー
 トン!

 出社直後、私、堀川 由亜(ほりかわ ゆあ)がデスクで朝食代わりのバランス栄養食のバークッキーをかじっていると、目の前に小洒落たタンブラーが置かれた。

 私は、そのタンブラーに置かれた手をたどつてその手の主を見上げる。

「飲め」

有無を言わせぬ命令口調で言う彼は、私の直属の上司、石井 理人(いしい りひと)、30歳。

無駄に背が高い上に、凛々しく精悍な顔立ちをしているので、威圧感も大きい。

「石井さん、また背伸びました?」

私は首が痛くなるほど見上げて言う。

「伸びるか!
お前が座ってるからだろ」

石井さんはコツンと私の頭に拳骨を落とす。

「ああ!!
私の身長が縮んだじゃないですか。
私より頭3つ分も大きいくせに、さらに
その差を広げようとしないでくださいよ」

「どこが頭3つ分だ!?
お前はいつからそんな小顔になったんだ」

石井さんは、軽く私のおでこにデコピンをする。

「いったぁ!
暴力反対!!」

私が大袈裟におでこを押さえると、

「うるさい!
そんなに強くやってないだろ。
四の五の言わずに、さっさと飲め!」

「ええ〜」

私が不平を漏らすと、机の上のタンブラーをずずいっと私の方へ近づけられた。

「ほら!
いつもそんなのばかりじゃ、体に良くない
から」

そう。
いつも石井さんは、私のことを心配して世話を焼く。
このスムージーも、きっと石井さんの手作り。

「だって、これ、草の色してますよ?」

私が顔を歪めると、

「草じゃない。小松菜だよ。
いいから、飲め!
そんなに青臭くないから」

とさらに口元に近づけられる。

私は、渋々、そのスムージーを飲む。

「ん? あれ? 美味しい。
石井さん、これ、ジュースみたいですよ?」

私が言うと、石井さんは薄く笑みを浮かべる。

「だから、言っただろ。
ほら、全部飲めよ。
残したら、仕事増やすからな」

そう言って、石井さんは自分の席に向かった。
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