食べたくない私 と 食べさせたい彼【優秀作品】
筑前煮
 子供の頃、私は母が作る筑前煮が好きだった。

子供の好きな料理の定番といえば、唐揚げやハンバーグと相場は決まっているが、母の煮物は絶品で、肉じゃがや五目豆などを好んで食べていた。


 ところが、中学2年生の夏休み、私は夜中に目が覚めた。

普段は物静かな父が声を荒げている。

けんか?

私は両親のけんかを見たことがない。

どうしたんだろう?

見に行くこともはばかられて、私は布団の中からこっそり聞き耳を立てる。

「ごめんなさい」「別れて」「お願い」

切れ切れに母の声が聞こえる。

泣いてる?

っていうか、お母さん、離婚したいの?

両親が離婚するかもしれないなんて、今まで考えたこともなかった。

「別れてどうする!?
由亜は?」

「連れて…… 」

母の声はよく聞き取れない。

「連れ子を虐待したり、手を出したりする
ニュースなんて、いくらでもあるじゃ
ないか。
そんなところに由亜を連れて行かせられる
わけないだろ。」

「あの人はそんな人じゃ…… 」

私はそれ以上聞きたくなくて、布団を頭まで被った。

これは夢。
朝にはいつも通りの2人に戻ってるはず。

私は耳を塞いで、1人、数を数えて眠った。


けれど…

現実は私の期待とは違う方向に動いていた。
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