食べたくない私 と 食べさせたい彼【優秀作品】
朝、起きると、食卓には、保存容器に入ったままの煮物が並べられていた。
父がご飯をよそってくれている。
「由亜、おはよう」
不自然なくらい明るい父。
その瞬間、分かってしまった。
お母さん、いなくなったんだ…
お父さんより、私より、好きな人を選んだってこと?
父は、母が出て行ったのは、父との性格の不一致だと説明した。
私は、昨夜の会話を聞いていたことは言わず、黙って父の嘘を受け入れた。
目の前にたくさん並んだ、私の大好きな煮物の数々。
だけど、その朝の煮物は、何の味もしなかった。
それ以来、私は、食べるということが嫌いになった。
料理ができない父との生活は、毎日コンビニ弁当やスーパーのお惣菜が食卓に並ぶ日々だった。
大学に入り、一人暮らしを始めると、死なない程度に適当にカロリーを摂取するだけの生活が始まった。
それが現在も続いている。
なのに…
石井さんは、なんだかんだと無理矢理私にものを食べさせようとする。
私は食べたくなんてないのに。