食べたくない私 と 食べさせたい彼【優秀作品】
 私の向かいに座った石井さんは、私の取り皿に勝手におでんを取り分けていく。

「え、自分でできるから大丈夫ですよ」

私が言うと、

「自分で取らせたら、お前、ほとんど
食べないで終わるだろうから、俺が
やる。
これは、お前のノルマだから、絶対に
残すなよ」

と釘を刺された。

この人は、なんでこんなに私にものを食べさせたいんだろう。

私は、渋々おでんを食べ始める。

「堀川は、なんでそんなに食に興味が
ないんだ?」

食べながら、尋ねられる。

「……………トラウマ?」

私は、ポツポツと母の話を語った。

石井さんは、黙って聞いてくれて、最後にこう言った。

「お母さんは、堀川を連れて行きたかった
はずだよ。
ただ、連れて行きたくても、それが
出来なかっただけで。
だからお前は、次にお母さんに会えた時の
ために、ちゃんと食べて健康でいなきゃ
いけない。
お前がガリガリだったら、お母さん、
きっと自分を責めるだろう?」

そういうものかな?


あれから10年。
私は、今日初めて、母のことを人に話した。

すると、なんだか、わだかまっていたものが少し溶けていく感じがした。



 その日から、石井さんは、毎日、私に夕食をご馳走してくれた。

なんだろう…

石井さんって、お母さんみたい。
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