幼なじみの不器用な愛情
「今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。」
隆弘が頭を下げると老人は隆弘に小さく頭を下げた。

この渡部という老人は隆弘がやっと見つけた人物だった。

華が両親と住んでいた時はまだ、奥さんが生きていた。今は奥さんも亡くなり待ちにある老人ホームに住んでいた。しかし、面会や外出の許可がなかなか下りず、会うまでに時間がかかったのだ。
しかし、隆弘の申し出に老人は快く会えるようにと手はずを取ってくれた。

少しして3人は座ってコーヒーを頼んだ。
「家の周辺も随分とかわっただろう。」
「はい。」
老人の話に隆弘と華が頷く。
「私の記憶も年と共にいかれはじめてな。ばあさんのことも忘れそうでなぁ。」
「・・・お体は大丈夫なんですか?今日は無理いって外出させてしまいすみません。」
隆弘が心配そうな瞳を老人に向けると老人は顔のしわを深めて隆弘に微笑んだ。
「わしの頭が完全にいかれてしまう前に会いたかったんだ。どうしても。」
老人は華の方にゆっくりと視線を移した。
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