幼なじみの不器用な愛情
「だからこそ、あんなに悲惨な事故が起きたことにみな心を痛めたんだ。」
老人の表情が険しくくもる。
「華ちゃんのことも、やっと見つけたのは2週間が経とうとしている時だった。隣に住んでいたのに気づけなかったことにばあさんとふたりずっと悔やんだ。」
老人は華の方を痛ましく見つめた。
「悪かったね・・・つらい経験をさせて・・・」
華は目を開けて首を横に振る。
「あの事故もな・・・防ぐことができたと後悔したんだ。みんなで。せめてあの集落に医者がいたらな・・・。」
「あの時の記憶が曖昧なんです・・・私・・・。教えていただけませんか?あの日のことを。」
華の目には覚悟が見えて、老人は小さくため息をついてから話始めた。

隆弘はまだ華の手をギュッと握っている。

「あの日、華ちゃんは久しぶりに喘息の発作が起きそうでな。家で安静にしていたんだ。大きな台風が来ていて、気圧の関係じゃないかって華ちゃんのお母さんが言っていたのを覚えてる。」
華の手が少し震えだす。
曖昧になっていた記憶が少しずつよみがえっていた。「台風が進路を変えて直撃するかもしれんと分かった時にはもうかなりの雨が降っていたんだ。」

老人は過去を思い出し、時々目を閉じて話し続けた。

大型の台風が来ることが分かっていた日本列島。しかしその進路は予想とはかなり変わり、華の住んでいた集落に直撃することが分かった。その時に集落全員で集まり、災害に備えた準備をし始めたという。
ちょうど秋の米の収穫時期だったため華のお父さんは農家の手伝いに行っていた。
華の母は華と一緒に家で水を汲んだり、電気が止まってもいいよにつと集落の人にも配れるようにたくさん保存食を作っていた。
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