いつも、ずっと。
ブブブブブブブブ




至近距離まで近づき、目を閉じようとした時に鳴り響いた電子音。

甘い空気に似つかわしくないくぐもった音に動きを止めると、明日美の目がバチッと開かれた。



「あ…………メールの来たとかも」



誰だよこんな大事な時に。

邪魔しやがってちきしょうめ。



「なんか知らんけど、見てみれば」



あーあ、これから盛り上がるところだったのに。

だけど今の俺は細かいことにイラついたりなんかしない。



メールの着信を知らせるバイブレーションの音によって甘いムードが消えてしまった。

明日美が携帯を操作する姿を眺めながら、見慣れない携帯だなと気付く。

まさか、俺と色違いで同じ機種の携帯から別のやつに機種変更してしまったのか?

番号も変わったから繋がらなくなっていたのか。

明日美にそうまでさせてしまった自分の不甲斐なさを改めて思い知る。

今度は一緒にスマートフォンに替えるつもりでいたのに。



「あのね友也、お母さんがね、友也も晩御飯一緒に食べようって。その前になんか言いたかことのあるとやったら早う来んねって。お父さんも帰ってきたらしかけど、どう?」



お見通しか!




バレてるのなら話は早い。

突撃して慌てさせるよりも、心の準備をしてくれてる方が話しやすい。



「分かった。おじちゃんとおばちゃんに話しに行こう。明日美との結婚ば許してもらわんばいかんし。覚悟はしとったつもりやったけど、いざとなると緊張するな……」



立ち上がり、服装が乱れていないか自分の目で確かめる。

柄にもなくドキドキして、体が震えそうだ。

今日は俺にとって人生最大の勝負の日になるだろう。



「友也、大丈夫?私が一緒におるけん平気やろ。私も友也のお嫁さんになりたかけん、ちゃんとお願いするつもり。だけん……」



同じように立ち上がって、俺のシャツの襟を正してくれた明日美。

その手は俺から離れていくことなく、首に絡み付いてきた。



「緊張ばほぐす…………おまじない」



背伸びをして、唇に柔らかくて温かな"おまじない"という名の幸せを届けてくれた。

俺もその想いに応え、明日美を優しく抱きしめて甘いその唇をしばし堪能する。

二人きりの時間を惜しむように、優しい口付けを何度か繰り返した。



「さ、それじゃ行くか」



「……うん」



いざ決戦の地、生田家へ。






< 101 / 108 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop