いつも、ずっと。
「もしも明日美から御子柴くんに連絡あれば、どうぞご自由に。ただし、カミングアウトはだめよ。矛盾のなかごとできるだけ私の話に合わせるごとしてね」



俺から積極的に説明しない方がいいってことか。



「御子柴くんにはなるべく迷惑かけんごとするつもりやけん。……なんか、雨酷うなっとらん?」



「マジか!こら二人とも戻ってこれんか?どうすっか」



明日美のことが心配になり、窓の外を見ようとしたときに事件は起こった。



「…………えっ!?ちょっと青柳さん!」



「動かんで!!今だけは、ちょっとだけこのままでおって。お願い……」



突然、青柳さんが俺に抱きついてきた。



「お願いやけん、ちょっとだけ我慢して」



俺は訳も分からず、ただ体を強張らせて黙っていた。

『やめろ!』と振り払いたかったけど、なぜか出来なかった。

明日美以外の女から触れられるのがこんなにも不快だなんて、初めて知った。



時間にしてほんの数分だったんだろうけど、ものすごく長く感じた。

青柳さんが離れてからもしばらくは言葉を発することができずに、多大な疲労感に襲われていた。



一体何だったんだ、さっきのアレは。



「……そろそろ帰る?もうここにいる意味なかし」



「なんで……明日美たち、まだ戻っとらんやろ」



さっき青柳さんに抱きつかれた時、急に雨が土砂降りになった。

明日美と瀬名は、何処にいるんだ。

携帯の電源を入れてみたけど、メールは来ていないようだ。

電話をかけようかと思うより先に、青柳さんから忠告される。



「まさかと思うけど、明日美に電話しようとか考えとらんよね。もう既に契約は始まっとること忘れんで。明日美なら瀬名くんがちゃんと家まで送ってくれるはずやけん大丈夫よ。悪かけど私ば送ってくれんかな。だってフリとはいえ、一応私……彼女やし」



なんでそんなこと分かるんだ。

まるで見てきたかのようなことを言う。

しかし不本意ながら、契約は契約だ。

俺は明日美から連絡が来るのを待つしかないのか。

連絡がきたところで、言い訳も弁解もできないけど。



仕方なく青柳さんを家まで送ってから、俺も家に帰った。



家の前まで来て、隣の生田家のドアをじっと見つめてしばらく動けなかった。

明日美、帰っているか?

そのドアをノックしたいけど、できる訳もない。



意気地無しなのは、俺の方だ。




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