いつも、ずっと。
明日美の偽者彼氏でなくなって、約二ヶ月。

俺の心は闇をさまよい続けていた。



車の中で話して以来、明日美とは連絡を取り合うことも偶然会うこともなかった。

青柳さんとの契約があるからというのも勿論だけど、仕事が忙しくて私生活に余裕がなかった。

今年に限らずこの時期は忙しくて、明日美とゆっくり会えなかったことを思い出す。

だから特別なことじゃないと言い聞かせようとするけど、そんなことで自分を誤魔化せるはずもない。

現実逃避するかのように、仕事に没頭する毎日だった。



俺だけでなく明日美も忙しくしていたようで、近頃は出張していることもあるみたいだ。

この前は佐世保に長期出張だったとか。

そういう情報は母さんが仕入れてきてくれる。

俺が頼んだわけでもないのに。



俺は新年度になってからずっと慌ただしい。

新しいクラス、家庭訪問、運動会……。



運動会といえば、今年こそは来るはずないと思っていたのに。

明日美は今年も来てくれていた。

俺に隠れてこっそりと見に来ているつもりらしいけど、俺はちゃんと分かっている。

明日美は俺が気づいているとは思っていないだろうけど。

帽子を被って眼鏡をかけているのは、運動会を見に来る時のお決まりのスタイル。

変装のつもりなんだろうけど、そんなもので誤魔化される俺じゃない。

明日美は視力は悪くないからあれは伊達眼鏡だろう。

運動会限定の眼鏡姿を今年も見ることができて良かった。



しかし明日美の姿を見かけたのは午後イチの応援合戦の時だけだった。

午前中にはいなかったし、応援合戦の後も姿を消してしまってたし。

毎年欠かさず来てくれていたけど、こんなに短時間だったのは初めてだ。

もしかしたら、去年までは見つかっても構わないくらいの気持ちだったのかも知れない。

大っぴらには来れないから一応変装してはいるけど、本当はバレてもいいと思っていたのか?

それは多分、偽者とはいえ彼女だったから。



今年はそうじゃないから。

俺に見つかる訳にはいかないって、ちょっとだけしかいなかったのか。

どうして見に来たのかって弁解できないから。

そんな危険を犯してまで見に来てくれたのだろうか。



明日美はまだ、俺のことを想ってくれている?

明日美の心にはまだ俺は存在しているって、自惚れてもいいのか?



まだ、間に合う……?




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