いつも、ずっと。
あれ、なんか引っ掛かってる気がするけど。

なんだっけな。



「あ、おめでとうございます。じゃあ勿論、結婚……」



「うん。ちゃんとプロポーズしてもらいました。だけんもう私たちの契約は解除ね」



青柳さん、妊娠してるって聞いただけでその佇まいが母性に溢れて神々しく見えてくる。

それはきっと田代先輩から愛されていると実感できたからじゃないだろうか。



「本当はね、テツくんからのプロポーズば待たずに明日美に今日打ち明けるつもりやったと。いろいろ相談したかったし、謝りたかった。親友に嘘つかれた悔しさとか悲しみば分かって欲しかったとけど、嘘ついた方も苦しいって私も分かったし。ちゃんともう一度話して仲直りしたかった。でも、何回電話しても繋がらんとよ……」



「俺も駅で別れたあと何回か電話かけてみたけど、電源オフでかからんかった。で、青柳さん。明日美になんか言うた?」



今日会って相談したかったのなら、なにかしらの情報を与えていてもよさそうだけど。



「実は、赤ちゃんできたってことだけ言っちゃった。あの時は気が動転してて、支離滅裂やったと思う。明日美、驚いたやろうね」



明日美は青柳さんの妊娠のことを昨日聞いたのか。

……ちょっと待てよ。



「なあ、青柳さん。俺とは付き合うフリやったってこと、明日美には言うた?」



俺からの問いかけにハッとした様子の青柳さんが、自信なさげに答えた。



「えっと……。あの時は時間もなくて。テツくんのご両親が来て慌てて電話切らんばごとなったけん。会った時に全部話すつもりやったし」



明日美が別れ際に言った言葉が、脳裏に鮮明に甦ってきた。





『私ね、思うんだ。友也は絶対に素敵なパパになれるよ』





明日美はまだ俺と青柳さんの関係がフェイクだとは知らない。

ということは、青柳さんのお腹の中にいる子どもの父親が俺だと思っているのか。



この二ヶ月、苦しくて堪らなかった。

だけど明日美は俺なんかよりも、もっと辛かったはずだ。

そんな明日美が俺に会いに来てくれたのに。

電話にも出てやれなかった。

極めつけに、青柳さんが俺の子どもを妊娠してるなんて酷い誤解まで。



「御子柴、生田さんには本当に悪かったと思っとる。しかし福岡に出張とは。本当は今日直接謝りたかったとにな」



先輩、ちょっと遅かったよ。





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