いつも、ずっと。
親だけには本当のことを言おうと言った俺に、自分の親には嘘をつきたいと言ったのは明日美だ。

明日美だって好き好んで嘘つきたかった訳じゃないのは俺だって分かってるつもりだった。

だけど俺が思っている以上に強い覚悟だったのかも知れない。



「明日美が打ち明けてくれた時に私も言おうかと思ったとよ。『フリってこと知っとったよ』って。でも明日美は私になんも言わせんように家ば出ていってしもうたけん。……ねえ友也くん、一体どかんなっとると?明日美に探りば入れても『なんでもない』って話してくれんし。なんでもない訳ないやろ?」



今日こうして生田家にやって来たのは、明日美の両親に全てを話すためだ。

これまでの明日美と俺の関係について。

ここ二ヶ月の二人のすれ違い。

明日美を傷つけてしまった、俺の罪。

そして、これからのことも……。

全て、包み隠さず洗いざらいにおじちゃんとおばちゃんに話しを聞いてもらうことができた。






「……友也。お前のこと殴ってもよかか?」



おじちゃんの声が今まで聞いたことがないくらいに低くドスが効いていて、全身が震えてしまった。



目を閉じて歯を食い縛る。



今か今かと心臓バクバク言わせながら待ったけど、痛みは全然やって来なかった。

その代わりに耳に飛び込んで来たのは……。



「こん、バカたれがっ!!」



耳をつんざくような、おじちゃんの怒鳴り声だった。



「この俺がお前ば殴れると思っとるとか!そりゃ殴りたか気持ちではあるさ。そいけど殴ったところで気持ちの晴れる訳じゃなし、なによりも明日美がそがんこと望まんやろ。"愛の鞭"って言葉のあるけど俺は暴力は好かん。俺らが望んどるとは、明日美の幸せ。…………そして友也、お前の幸せもぞ」



「明日美だけじゃなくて…………俺も?」



明日美を傷つけてしまった俺なんかの幸せも望んでくれるのか?

殴られて当然だと覚悟したのに。



「当たり前たい。俺らは明日美の親やけん、明日美にはなにがなんでも幸せになってもらいたか。でも明日美だけじゃなか。友也、お前だって息子同然に大事かとさ。だけん二人とも幸せになってもらわんば困る。そいに……」



そいに?

ちょっと口ごもったおじちゃんをじっと食い入るように見つめる。

おばちゃんに目配せし、二人テレパシーで会話でもしているのか。

すごいな。





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