いつも、ずっと。
先を越されてしまったじゃないか。

俺のプランにはなかったハプニングだ。



「逆プロポーズ…………」



「え、逆ってなん?男の人しか求婚できんって決まっとらんやろ。で、どがん思うとると?私のこともらってくれると、くれんと」



そりゃ勿論、答えは明白だ。



「くれるって言うとなら、有り難く頂戴する。俺は明日美と一緒に幸せになりたか。…………結婚しよう!」



一瞬にして太陽のように明るくて眩しい笑顔になった明日美。

俺はこの可愛すぎる笑顔に惚れたんだ。



「はい喜んで!」



感極まったらしい明日美が突然俺に抱き付いてきた。

青柳さんの時とはまったく異なる感触で、俺の心は踊り出したくなるほどに舞い上がった。



しかし舞い上がりすぎて、大事なことを失念していた。



明日美も相当浮かれていたのか、抱き付くのは一向に構わないが、力加減ができていなかった。

勢いがつきすぎてまるで体当たりかタックルの如し。

急すぎて体勢が整っていない俺は、上手く受け止めることができずにそのまま床に押し倒されてしまった。



「うげっ…………痛てててててててててっ!!」



「友也っ大丈夫!?」



背中の傷はめちゃくちゃ痛いが、これは明日美を守っての名誉の負傷。

だからって、こんなもんで明日美の心の傷をチャラにできるなんて思っちゃいないけど。



明日美に手伝ってもらい体を起こす。

ほら、俺は今だって明日美がそばにいてくれないと何もできやしないダメな男だ。



「はあっ。俺はな、明日美に告るとはプロポーズするときって決めとったとぞ。それば明日美にバラされとうなかったけん、青柳さんの言いなりになってしもうた。でも結局ダメダメやったな俺。人生なんて思い通りにいかんことの方が多かったりすっとかな!」



「だけんフリやったと……。告ってもおらんとに付き合うわけにいかんかったってことね。だけん私にも言わせんかったとやろ?」



さすがに気付かれてたか。

今までに何度か明日美から気持ちを打ち明けられそうな時があった。

それを交わすのにも結構苦労したなと思い出す。

明日美から好きだと言われたら、我慢なんて出来るはずがない。

自分の気持ちを抑えられなくなるのが怖かった。



「ごめんな。本当はもっと(はよ)う求婚したかったけど、仕事のこととか、貯金とか。男としてのプライドもあるし」



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