目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
一緒に夕食を食べに行ってわかったのだが、百合は奢られることを嫌う。
小料理屋でも自分の分は支払うと言って聞かなかった。
あまりそこで揉めてもいけないので、取りあえずは百合の言うようにしたが、この先ずっとは俺が嫌だ。
と考えて、それからは「奢られてもあまり恐縮しない」金額の店を選んできたのだ。
お好み焼きも中華料理も、そこまで目を剥く金額じゃない。
だんだん心を許してきた百合は、さっさと先に会計を済ましてしまう俺に半ば呆れながら、いつしか諦めたようだった。
だが今日の店は少し勝手が違う。
まずメニューがない。
金額がわからない怖さが、百合の目を泳がせているようだった。

「い、一色さん。ここ、何屋さん?」

「フレンチの店だよ、メニューがないけどコースで出してくれるから。嫌いなもの無かったよね?」

「無いですが……」

と、百合は怯えた目で俺を見る。
だが、前菜が出てきた瞬間、その目が大きく見開かれキラキラと輝いた。

「わぁ……綺麗……宝石みたい」

それは魚介のカルパッチョのようだった。
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