目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「美味しい……幸せ……」

頬に手を当て、首を傾げて咀嚼する。
その幸せそうな姿に、俺も釣られて幸せになった。

「百合」

「え!?は、はいっ?」

突然名を呼ばれ、百合はナイフを落としそうになっていた。
それもそうだろう。
俺が「百合」と呼びかけるのは初めてなんだから。
大学時代だって、名前で呼んだことはなかったし、最近の夕食会でも、名前は呼んでない。
あくまでも俺の心の中で呼んでいたのだ。
百合は面食らった表情のまま、俺の次の言葉を待った。
デザートまで待てばいいのに、俺は先を焦りすぎている。
だが、もう逸る心を止めることは出来なかった。

「結婚して欲しい」

その簡単な言葉を聞いて、百合の手から今度は完全にナイフが滑り落ちた。
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