目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「違うよ。冗談なんて言わない」

俺は慎重に言葉を選ぶ。

「……でも、とても信じられません。だって、一色さん、彼女と別れたばかりでしょう?付き合ってもない私と……その……結婚だなんてからかってるとしか思えない」

百合は落としたナイフを一度皿に置き直し、こちらを見据えた。
その目は、俺の真意を探っているように見える。
彼女の言ったことは正論だ。
だが、そんな正論が全く機能しないこともある、と俺は身を持って知っている。
どうしようもないほど愛しくて、わけがわからくなるくらい翻弄される。
そんな相手を前にすれば、正論や理性は何の役にも立たないんだ。

「早すぎるってことはわかってる。でも、君となら楽しい人生が過ごせると思ったんだ」

「楽しい人生……ですか?でも、私大して面白いことも言えませんし……」

「……いや、そういう意味じゃ……あ、あのな?もしかして……俺のことがあまり好きじゃ……ない?」
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