目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「えーと……父は何をしに?」

「大きな菓子折りを持って、ご挨拶に……」

「挨拶……ってまさか!!」

百合は感づいた俺を見てふふっと笑った。

「こう言ってました……こちらに随分お世話になっているようですみません。あいつは、一見冷淡に見えますが実は情の厚い優しい子です。どうかよろしくお願いします……って」

「…………ははっ……そんなことを……父が?」

まさか、そんなことをしていたとは。
子供じゃあるまいし、恥ずかしいじゃないか!

「それでね。私がここに来たことは内緒にして欲しいって。一色さんが嫌がるから」

何から何までそつがないな。
そうか、結局、父の手から逃れたつもりで、その掌で踊っていたということか。
だが、不思議と前のように怒りが込み上げてこなかった。
きっと知ったからだ。
見てないようで、俺のことを見ていた父。
それがわかったから、俺から怒りが消えたんだ。
もしかしたら……。
母はそんな父の優しい面を知っていたから、ずっと信じていられたのかもしれない。
だって母は仕事をする父を笑って見守っていたんだから。

「いいお義父様ですね?」

「うん……そうだな」

わかってみれば単純なことだ。
でもそれは、教授と百合がいなければ、俺だけでは絶対に気付かなかったことだ。

「百合。ありがとう」

「え?私、何もしてませんよ?」

彼女は、心の底からそう思っているようだった。
自分が俺に何をもたらしたのか、百合は知らない。
そして、たぶん俺もそれを言わない。
彼女のくれたもの。
それに対するお返しは、俺が一生をかけて百合に与え続ける愛情しかない、そう心に決めていた。
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