目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
男はスッと姿勢を正し、深々と医者に頭を下げる。
ヨレヨレのスーツなのにそうして立つと男の体格の良さと姿勢の良さが浮き彫りになった。
もともと風を切って歩くようなタイプの人なんだろう。
私とは正反対の……。
そう考えると、ふっと何かが頭に浮かびかけて、すぐに消えた。
医者と看護師は連れだって去っていき、病室には正体不明の男と私の2人きり。
この人、一体誰なんだろう?
そして、自分に何があったんだろう?
何もわからずに男を見ると、彼は近くの椅子を引き寄せて、私の左隣に座った。

「大丈夫か?何か、欲しいものはあるか?」

「いえ……別に……あの……」

「ん?」

男は更に近付いて、私の手を握った。
全く知らない人にもかかわらず、嫌悪感がまるでない。
それどころか胸が締め付けられる感じがした。
男は間近で見ると、本当に端正な顔立ちをしている。
一瞬問いかけたことを忘れてしまうほどの容姿に気圧されていると、今度は男がこちらに問いかけた。

「何があったか……覚えているか?」

その低い声のトーンに、少し既視感を覚えた。
だけど、やはりすぐに消え、果てしない靄が私の頭を覆う。

「ごめんなさい。何も……わからない。自分の名前も……何があったのかも……」
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