目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
プルルルル……という無機質な電子音が別荘内に響く。
鳴り続けるコール音に、蓮司さんを探したけど、外に出ていて聞こえないみたいだ。
仕方ない、音を辿って電話を探そう……と思い私はウロウロとし始めた。
普通電話は一階にあるはず。
別荘だから、各部屋に内線はあるけど、親機はきっとこの近くにあるというのはだいたいわかっていた。
リビングから、廊下をぬけ、玄関のロビーへ向かう。
すると、一際音が大きくなった。
玄関付近にいるはずの蓮司さんに、コール音が聞こえないのは、二宮さんを駐車場まで送って行ったからに違いない。
電話はロビーの奥、リネン室に向かう廊下の入り口にあった。
依然として鳴り続ける電話に、出て良いのかどうか迷った。
でも、大切な電話だったらいけない。
蓮司さんのお仕事の電話かも。
そう思ったら出ないという選択肢はなかった。

「……はい」

小さな声で自信無さげに電話に出た。
すると、電話の向こうからチッと舌打ちが聞こえた。

「フン……生きてるのね……全く、なんて悪運が強いのかしら?」

ーーーその声、その言葉が耳に届いた瞬間。
激しい頭痛に襲われ、目の前が真っ暗になった。
電話口からは、まだ女が何かを喋り続けている声がする。
暗闇に沈みながら、その声が何者だったかを思い出すと、それが栓をしていたかのように記憶は私の中から溢れ始めた。
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