目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
そのことに気付いてしまえば、なんのことはない。
私は初恋を自覚した途端、失恋したのだ。
彼の側には今も美しい彼女がいて、これからもどんどん美しい女性が居続ける。
私は……私が一色さんの対象外だってことを自覚している。
この恋心を告げても、避けても、困るのは彼だ。
困らせたくはない。
今の関係を壊してしまうくらいなら、この気持ちをそっと忘れよう。

「次のスイカ、切りますね!縁側で待っていて下さい!」

出来るだけ明るく言うと、一色さんは頷いて縁側の父の元へと向かった。
私はスイカを切るためにキッチンへ行こうとして、背中越しに父の呼ぶ声を聞いた。

「百合。花火が始まるよ!?早くおいで」

縁側で父は手招きをした。
その隣には同じく「おいで」と笑う一色さん。
……これはこれで幸せなこと。
生まれた恋心は誰にも知られることなく消える花火と同じ。
だけど、確かにあったと私だけは知っている。
その思いを胸に、私は縁側で大輪の花を見上げた。
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