目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
電話から約20分後、蓮司さんは帰宅した。

「お帰りなさい、蓮司さん!」

「ただいま。百合。留守中何もなかった?」

お土産を手渡しながら、蓮司さんが心配そうに尋ねた。
家に上がる時間もないのか、玄関口に立ったまま動こうとしない彼を私はじっと観察した。
少し窶れていて、目の下にクマも出来ている。
更に心労のせいか顔色も悪い。
私の心配をしてる場合じゃないのに、とその心遣いに涙が出そうになる。

「うん。何もなかったよ?駅前に新しい洋菓子屋さんが出来たくらいかな?」

震える心を押し殺し、おどけて言ってみた。
嘘を付くのが下手な私は、出来るだけ得意な話題に持っていかないとボロが出る。
だから、食べ物屋の話はピッタリで、ナチュラルに何もなかった振りが出来たと思う。

「へぇ、じゃあ今度行かないとな。ああ、ごめん。もう出ないと」

腕時計を見て蓮司さんはため息をついた。

「うん。大変だね。私も何か出来たらいいけど……」

「何言ってんの?百合にはいつも助けられているよ?俺は君がいるから頑張れるんだからね」

「……ん、ありがと」

照れて答えると、蓮司さんは私の頭をよしよしと撫でた。

「じゃ、行ってくる、先に寝てていいよ?遅くなるからね」

そう言うと、彼は踵を返し会社に戻って行った。
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