目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。

ベイサイドホテルを眼前に捉えながら、港側の歩道橋の階段をゆっくりと登る。
キョロキョロと電話の彼女らしき人物を探したけど、影も形も見えなかった。
仕方なく歩道橋の中央まで行くと、強い海風が肌を駆け抜ける。
海に落ちる夕日がとても綺麗に輝いていたけど、それを堪能する余裕はなかった。
それから、待つこと５分ほど。
ベイサイドホテル側の歩道橋から、ベージュのロングカーディガンに白いシャツ、黒のパンツスタイルのスレンダーな美人が現れた。

「奥様？」

「は、はい」

不敵に微笑む彼女に、一瞬気圧された。
歴代の蓮司さんの彼女が全て美人だったから、今度もそうだとは思っていた。
ある程度のショックも想定内のはずだったのに、目の前の元カノが想像を絶する美人だった為、私の思考は停止しかけた。
彼女は、私のその反応を楽しむように近付き、肩からかけた大きめのトートバッグから小さい封筒を取り出す。
そして、それをカシャカシャと振って見せた。

「これ、例のデータ」

「……渡してくれるんですよね？」

「その為に来てもらったのよ」