目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「契約……」

蓮司さんがそういう人だとは昔から感じていた。
でも、恋愛観まで侵食されるほどのものだったなんて。
私の小さな呟きを真摯に捉え頷くと、蓮司さんは先を続けた。

「……だが、彼女は裏で社内の他に女性に危害を加えたり、中傷したりを繰り返していてね。それで、別れようと思ったんだ」

その話を聞いても驚かなかった。
少し関わっただけだけど、あの人なら、牽制のために人を押し退けることなんて普通にする、と思ったからだ。

「……ちょうどその頃だよ。葬儀で君に出会ったのは……俺は君を愛してしまい、早々に相島笙子に別れを切り出したが……納得した別れではなかったんだろうな……その復讐の悪意が、君に降りかかるなんて思いもしなかった……」

「蓮司さん……」

「百合。俺は……こんな俺を知って欲しくなかった。思い出して欲しくなかった。君を一途に愛し続ける夫として、側にいたかった……」

そう言うと、蓮司さんは消え入りそうに儚く微笑んだ。
そして、私は彼の苦悩の正体を理解した。
時折見せていた、苦悩の表情は、この意味もあったのだ。
私の知らない昔の冷酷な自分を見せたくなくて、どう思われるのかが怖くて。
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