目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「よぅ、蓮司」

「おう」

仕切られた部屋の奥から出てきた男が、蓮司さんに向かって片手を上げた。
ゆるいくせ毛の茶髪。
ラフな服、気難しそうな雰囲気。
男は絵描きだと一発でわかる風貌をしていた。

「こいつ、高校の友人で柾敦(まさきあつし)。わりと有名な画家なんだよ」

簡単に紹介され、私も自己紹介する。

「どうもはじめまして?百合です」

疑問符をつけたのは、初対面かどうかわからなかったから。
この少しおかしい挨拶を、柾さんは華麗にスルーし、どーも!と軽く頭を掻き言った。

「よーく知ってる。蓮司の嫁サンな?」

「は、はい、あ!じゃあ、もしかして……初めましてじゃなかったんですか?すみません!私ったら……」

やってしまった!と、慌てて取り繕うと、柾さんは飄々と返してきた。
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