目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
私の言葉に、蓮司さんは小さくため息をついた。
でも、すぐに気を取り直し、柾さんから何か紙切れを受け取っている。
そして、それを私に見せた。

「見て。この写真……」

見せられた写真は、絵の場所、サントリーニ島フィラ地区の白い街。
その坂の中程に微笑む私と蓮司さんが寄り添って写っていた。

「新婚旅行はここに行ったんだよ。君が教授と初めて行った思い出の場所だって聞いたから……」

《教授》その言葉の響きに、胸が震えた。
そんな私を蓮司さんは切なそうに見ている。
微笑んでいるような、泣きそうな、そんな表情で。

私は蓮司さんから視線をもう一度絵に移した。
意識がその白い景色の中に、迷い込むとふと私の頭の中にある人が現れた。

《百合、危ないから、手を繋ごうな》

《うん、おとーさんっ!》

遥か上から、優しく笑いかける男。
彼は……ああ。そうだ。
彼は……私の父。
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