目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
八神憲一郎。
薬学部の大学教授。
母が亡くなってから、男手一つで私を育ててくれた優しい父親は初夏の頃、帰らぬ人になった。
心臓を悪くして2年間闘病し、最後は眠るように旅立ったのだ。
そうか、サントリーニ島がこんなに好きなのは、父との思い出の場所だから。
思い出した途端、からっぽの胸に暖かい雫が降り、少しずつゆっくりと染み込んでいく。
その暖かさが心地好くて、思わず顔が綻んだ。

「……教授は、父ね?」

「思い出したのか!?」

蓮司さんは跳ねるように私に近付き、柾さんも驚きの表情になる。
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