目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「……何の為に……そんなことを……」

理解してから、俺の第一声はこれだった。
普通付き合っている男女なら、まず始めにこう言うだろう。
「そんなはずはない!彼女がそんなことをするはずはない」と。
だが、俺は知っている。
相島笙子はそういう女だと。

「何の為に?一色製薬の社長夫人になるためでしょう?あ、お二人に恋愛感情があれば、社長をとられない為、という選択肢もありますが……それはどうも考えにくい」

三国さんは一体どこまで知っているんだろう。
ひょっとしたらあの日のワインバーにいたのかもしれない、そう勘繰るほどの推察だ。

「相島さんを庇わないことで、社長が彼女をどういう存在として見ているのかはわかりました。しかし、そんなこと被害を受けた女性社員にはなんの関係もありません。私は彼女達の被害報告を毎日記録しています。なんなら、証拠もありますのでどうぞ」

といって、あるものを俺に握らせた。
ボイスレコーダーだ。
その中に、被害女性が録音した笙子の声が入っているのだろう。
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