頑張る
帰り道

そんな自分にもやもやして、考え事をしながら歩いていると、
ドン
正面から誰かとぶつかって、尻餅をついてしまう。
「あっ、すみません!」
反射的に謝り相手の方を見ると、相手の足元が見えて転んだのは自分だけのようだった。手を差し伸べてくれたようだが、人見知りの性格が先走って慌てて立った。
「いえ、大丈夫で…」
背が高く見上げないと顔が見えないが、確認よりも先に恥ずかしさで立ち去りたくなる。うつむき加減でもう一度謝ると、相手が何かに気づいたように話すのを止めた。どうしたのか気になって顔を上げる。
「え、蓮くん⁈」
入学式で見かけた顔で驚いた。昔よりも格段に背が伸びていて程よく筋肉がついている体は、澪がぶつかっただけでは当然転ぶはずがない。久しぶりに親しかった人と話せて気分が上がる。
「なんで俺のこと…?って、なんだ澪か?」
覚えてくれていた事に内心喜んでいると、蓮は澪のことを認識した途端に冷たくなった。落差に戸惑う。
「ひ、久しぶりだね!」
「…うん。」
緊張で声が裏返りそうになる。そもそも仲が良い人と話すことさえも久しぶりなのだ。
「あ…今私一人暮らしで、こっちの高校来たんだけど、蓮くんがまさかここに通ってるとは思わな「もういい?じゃあ。」」
「え…あっ…うん、じゃあね」

蓮は幼なじみだが、すごく優しくて、笑顔の素敵な人だったように覚えている。小さい頃の澪は、今と違って人見知りでもなく、友達もそこそこ居たのだが、それでもいつも隣にいたのは彼だった。
蓮は、中学に上がるのと同時に引っ越してしまったのだが、澪は別れ際まで悲しくて泣きついていた。それからの久しぶりの再会だったので凄く嬉しかった。けれど、あんなに嫌そうな顔をされると、さすがに落ち込む。同姓同名の人違いであったらどれだけ良かったか。蓮は一応澪のことを認識していたので、澪の知る蓮であっているのだろう。唯一と言っても良い心を許した相手だったので、嫌われてしまったのかと思うと悲しかった。
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