俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方




 先ほど起こった出来事を思い返す度に、涙が出てきそうになる。電車に乗っている間は忘れようと目を瞑るけれど、その事しか考えられずにいた。
 葵羽との関係はもう終わりだろうか。初めて恋人との時間はこんなにもあっけなく終わってしまうのか。
 誰かに好きだと言って貰える嬉しさと気恥ずかしさ、好きな人と手を握り、抱きしめあう幸福感、キスをする嬉しさ。会っていない時もその人の事を考えてしまったり、次はどんな会話を交わすのだろうか、どんな時間を共に過ごせるのだろうか。そんなドキドキとした時間を彼はくれたのだ。


 「別れたくないです………葵羽さん」


 ケンカをしたばかりで、彼から逃げてきたというのに、そう思ってしまう。
 彩華は、やはり彼が好きなのだと実感出来た。
 
 けれど、彼の本当の事を知らなければ、また同じように不安な日々を過ごすだけになってしまう。それはわかりきっている事だった。

 自分は、これからどうすればいいのか。
 電車から降り、とぼとぼと静かな住宅街を歩いていた。
 いつもより体が重い。早く家に帰りたい。そう思って、足を早める。やっとの事で自分のアパートの玄関の明かりが見えてきた。すると、家の前に見慣れた車が停まっているがわかった。

 葵羽の車だ。


 彩華は咄嗟に逃げたいと思った。
 けれど、彼が車を停めている場所は自分のアパートの前だ。こんな夜中に彼から逃げてどうなるのだろうか。どこに行けるわけでもない。

 けれど、自分から彼の元へと迎える勇気もなく、少し離れて場所で彩華は足を止めてしまう。

 

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