俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「葵羽さん、誰かくるかもしれません。だから離して……」
「離したくありません」
「そんな…………」
「彩華さんを手離せるはずないです」
「………葵羽さん」
「今は全てをすぐに上手く話せる自信がないのです。………だから、こうしてあなたに私の気持ちを伝えます」
ゆっくりと彼の整った顔が近づいてくる。キスをされるとわかり、彩華は咄嗟に顔をそむける。けれど、すぐに片手で頬を抑えられ、後頭部は彼の手と壁に押し付けられて逃げ場がなくなってしまう。
こんな強引にキスをされる事などなかったかもしれない。
あんな事があったからなのか、葵羽から焦りを感じた。
「………いやっ………」
「だめです。逃がしません。僕がどれだけあなたを愛しているか。唇から感じてください」
「っっ………ん…………」
冷たい唇が彩華の口に触れる。ビクッと体を震わせてしまったのは寒さのせいなのか。
彩華は彼のキスに翻弄され、ただ与えられる甘い吐息を感じていた。
それと共に、彼がとても強く体を抱きしめ、そして彩華が倒れないようにと優しく抱き止めてめくれている。キスもゆっくりと彩華を味わうかのように、優しく動く。口の中を彼の舌が蠢き、彩華はその刺激の強さに目眩がしそうだった。労るように、それでいて強く彩華を求める葵羽。
それは、紳士的だけど、少し強引で俺様っぽさがある葵羽そのもののように感じられた。
葵羽からのキスをしばらくの間堪能させられた彩華の唇から彼が離れる。それと同時に深い息が吐き出されると、2人の白い息が混ざりあって空に消えた。
葵羽はそれを見つめたあと、目を細めて彩華の瞳を覗き込んだ。
「私を信じてくれて、ありがとうございます………次に彩華さんに会えることを今から楽しみにしています」
チケットを握りしめていた手に触れた後、葵羽は彩華の髪に短いキスを落とし、「おやすみなさい」と、名残惜しそうにしながらも、自分の車へと戻っていった。
彩華は彼が去った後に、よろよろと歩き始め部屋に戻った。
「ずるいのは、いつも葵羽さんですよ」
彩華は唇を押さえながら、そう呟いた。
彼からの想いはいつも沢山伝わっている。
後は、このチケットがどんな葵羽をみせてくれるのか。彩華はその1枚の紙を見つめて彼を強く想ったのだった。