俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方




 その日の夕方、彩華はその神社にまた訪れていた。すると、いつもより人が沢山おり何か準備をしていた。
 重機なども入り、賑やかな雰囲気だった。


 「彩華先生、また会いましたね。お疲れ様です」
 「あ、葵羽さん。こんばんは」


 そこにはいつもの白衣と今日は赤い袴を身につけた葵羽がいた。


 「お邪魔しています。これは………?」
 「あぁ、今度、収穫祭のような神社の行事があるのでその準備を地域の方々に手伝っていただいているのです」
 「お祭り………いいですね」
 「今週末にありますので、彩華先生もぜひいらしてください。夕方からで寒くなるので、温かい甘酒なども出るみたいですよ」
 「わぁ………ではぜひお邪魔します」
 「えぇ。お待ちしております」


 葵羽さんが嬉しそうに微笑んでくれる。
 そんな笑顔を見てしまったら誘いを断れるはずもなかった。それに、断る理由もなかった。休みの日にも彼に会えると思うと、彩華の心はとても温かくなる。


 これはやはり彼を気になっている証拠なのかもしれない。
 休みの日も会いたい。
 会えば胸がほんのり温かくなり、そして目が合えばドキドキする。
 そして、別れれば次はいつ会えるかなと思ってしまう。

 この気持ちは経験したことがなかった。
 きっと恋なのだと彩華もわかっていた。


 けれど、それを認めたくはなかった。



 自分の目の前で優しく微笑む彼の左手の薬指にはシルバーのシンプルな指輪がはめられているのだ。


 彩華が葵羽に気軽に声を掛けられない理由。
 そして、この気持ちが恋だと思いたくない理由。


 恋愛はこんなにも切なく苦しいものなのだと、彩華は初めて実感していたのだった。


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