俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
葵羽ルート 14話「エリック」
葵羽ルート 14話「エリック」
約2時間半のコンサートは、彩華にとってあっという間だった。
序盤はドビュッシー曲のコンサートだろうか?というぐらいに、ドビュッシーの曲が続いた。それは、彩華の部屋で弾いてくれた曲ばなりで、順番もまるで同じだった。
それが、彼からのメッセージのようで、思わず微笑んでしまう。大丈夫、葵羽さんだとわかっているよ、と伝えたくなる。
その後も、繊細で豪華、綺麗で豪快な演奏が続いていき、会場内は葵羽の演奏に引き込まれていった。もちろん、彩華も同じだ。彼の手の動き、ピアノのハンマーと弦から響く音が、体の巡っていくように感じられた。
葵羽はこんなにも素晴らしい演奏家だったのだと知り、自分の部屋の古びた電子ピアノで弾いて貰った事が、とても贅沢だった事に気づいた。
そして、彼が沢山の人の心をキラキラとさせ、感動させてくれるすごい人だったのだと思うと、少し寂しさを感じたりもしてしまう。
彼との距離がまた更に遠くなってしまった。
彩華はそんな風に感じてしまったのだった。
「エリック」として立っている葵羽は、すべての曲を演奏し終わると、割れんばかりの拍手、スタンディングオベーションで彼の演奏を賛辞されていた。
もちろん、彩華も同じように手を叩き立ち上がっていたけれど、その音や景色は今、自分はそこに立っていない。遠い景色のように感じられたのだった。