俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方



 ある日、光矢の婚約者から電話が来たのだ。大切な話があるから、と。

 2人で話しがしたいと言われ、実家に顔を出すと本当に婚約者の女だけが待っていた。光矢は仕事に行ってしまったらしい。


 「大切な話しとはなんですか?」


 いくら家族の婚約者だと言っても、2人切りになる状況は避けたかった。それに、葵羽は嫌な予感がしていたのだ。早くこの場から離れないと。そう思って話しを切り出した。
 その途端に、その女は葵羽に抱きついてきたのだ。


 「あなたが好きになってしまったの」

 そう耳元で囁かれた瞬間、葵羽はぞくりと体が震えた。その女は色っぽく言ったつもりだったのかもしれない。けれど、それは悪魔の囁きのように妖しく、とても怖い声に葵羽な聞こえた。
 葵羽はすぐにわかった。
 自分の事が好きなのではない。地位や金しか目がいっていないのであろう。有名人と繋がっている、大金をすぐに出せるぐらいの財力がある。
 だから、葵羽に目をつけて。
 好きだというのも、本当かもしれない。けれど、それは葵羽が好きなのではなく、葵羽についてくるモノが好きなのだろう。


 葵羽は彼女の感触がとても気持ち悪く思えて、すぐに彼女の体を引き剥がした。


 「………葵羽くん?」
 「そういうの気持ち悪いので止めてください
。私はあなたが好きではいですし、今の瞬間から嫌いになりました」
 「なっ………」


 葵羽の冷たい態度に、その女は顔を歪めた。そして、キッと鋭い視線で葵羽を睨み付けた。


 「綺麗な顔して女も作らずに、音楽ばかりやってる変人の癖に!私みたいな女がいれば、格も上がるじゃないの!」
 「…………下がるの間違いでは?………今後一切、私に近寄らないでください。もちろん、兄にも」
 「当たり前よ!神職の妻なんて、お金もそんなに貰えないのにだっさい事やってられないわ!」


 そう言うと、もう1度葵羽を睨み付けた後、その女はキツイ香水の香りだけを残して家を出ていった。


 「…………臭いな………」


 抱きつかれたからか、服からも香水の香りが漂い、葵羽はため息をつきながら、そう声のもらした。


 その日からその女は光矢の前に現れなくなった。
 

 それから光矢は少しずつ変わってしまった。




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