俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
そう言った葵羽の表情は泣きそうなぐらいに悲しげなものだった。その理由を彩華が知ることはなかった。
そして、葵羽の言葉の意味を彩華もよくわかる。葵羽は初めて恋をした男性なのだ。葵羽に会わなければ、憧れの人と会うときの高揚や緊張感、愛しいという気持ち、その人との未来を想像してしまう事。
そんな淡くてドキドキとした時間を過ごせたのは葵羽と出会ったお陰だと思っていた。
何を言っても彼の気持ちに答える事はない。彩華はそう決めていた。
けれど、彩華はどうしてもその気持ちを伝えておきたかった。
「………私、ずっと誰かを好きになることがなくて、ずっと恋愛をせずに一人で生きていくんだと思っていました。けれど、葵羽さんと出会った時に、「あぁ、これが恋なんだな」って、思ったんです。よく恋をすると毎日の何気ない景色が鮮やかになるといいますが、あれはその通りだと感じたぐらいに、葵羽に会えた日はとても幸せな気持ちになれて。ドキドキしたり、緊張したり………葵羽さんに恋をして、人を好きになる苦しさや愛おしさ、幸せさを感じられました。………葵羽さん、私と出会って、そして話しをかけてくれてありがとうございます。私の初恋の人は、葵羽さんです」
私が泣くのはおかしい。
けれど、話をしているうちに瞳に涙が浮かんできた。それを誤魔化すために、彩華は必死に笑顔を浮かべた。
けれど、それは葵羽にはすべてわかっていたようだった。
葵羽は優しく手を伸ばし、彩華の目蓋をなぞった。すると、彩華の瞳からポロリと涙がながれた。
「………ぁ………」