俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
突然店のドアが開いた。
その瞬間、彩華と祈夜は咄嗟に体を離しお互いに違う方向を向いていた。祈夜がそのスタッフに睨みをきかせていたようで、スタッフは謝罪をしながら店に入ってきた。
「彩華、行くぞ」
「え………?」
「あと、これ片付けてて」
「はいはい。さっきのお詫びにやりますよ」
先程入ってきたスタッフは、前に彩華と話した年上のスタッフだった。顔を真っ赤にした彩華を見て、大体の事を察知したようだった。
彩華が「すみません……」と彼に言うと、そのスタッフは口の動きだけで「よかったね」と祝福してくれた。
彩華がコートを着ると、祈夜は彩華の手を取った。そして、いつものように彩華の手を引いて歩き出す。後ろを振り替えるとスタッフの男性が手を振って見送ってくれていたので、彩華は小さく頭を下げてから彼の後を歩いた。
「………ったく、わざとじゃないかってぐらいイイ所で邪魔された。漫画かよ……」
「………でも、ちょっとドキドキしたね」
彩華がクスクスと笑うと、怒っていた祈夜も「確かにそうだな」と笑い始めた。
今日は今年一番の寒さになると言っていたのに、彩華はそんな風には感じられなかった。手を繋ぐ温かさも隣を歩く人が恋人になってくれたという事実が、体温を上げてくれているような気がした。
「……なぁ、今日は俺の家に行かないか?」
「え………」
「付き合い始めたばかりは、やっぱりダメか?」
「………ううん。行きたいよ」
どうしてだろうか?
彼の前だと何故か素直になれる。
こんな恥ずかしいことを言えるような性格じゃないはずなのに。そんな事を思いながらも、彩華は彼との時間が増えた事が嬉しくて仕方がなかった。
もちろん、恋人の家にお邪魔するという意味もわかっている。もしかしたら、そういう事もするかもしれないと。
けれど、それを期待している自分もいるのは事実だった。
「あぁ………やばい……」
「え?どうしたの?」
呻くように言葉を漏らした彼に、彩華は驚き彼の顔を覗き込んだ。すると、祈夜の頬は真っ赤になっている。
そんな姿にドキッとしながらも、「可愛い」なんて思ってしまったのは彼には絶対に内緒だ。
「嬉しすぎて、ニヤける」
「…………そんな事言わないでよ。私もニヤけちゃうよ」
「おまえもニヤけてるならいいや。ほら、行くぞ」
「………うん」
手を繋ぎ、照れくさそうに歩く男女。
それは、いい大人の2人だったけれど、学生のように初々しい雰囲気を醸し出していたのだった。