俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
彩華は彼からワイングラスを受け取りそのままカウンターに置いた。大切な話をしようと思っているのだ。お酒の力は借りたくはなかった。
「祈夜くんも悩んでいるみたいでした。私は少ししか話を聞いていないし、口を挟むのもよくないと思ったんですけど………このままだと昔のお客さんが来れなくなって、ご両親も悲しむかなって。もちろん、お客さんが来ないと経営が出来ないのもわかります。………みんなが同じ空間を楽しむためには、やっぱり思いやりがないとダメだと思うんです。だから、お客さんに少し考えてもらえるようにするのがいいかなって………」
「………彩華ちゃん。……君はいい子だね。祈夜の恋人になって貰えて僕も嬉しいよ」
月夜はにっこりと笑って微笑んでくれる。その笑顔は祈夜とそっくりで、さすが兄弟だと思わせるものだった。
最近付き合い始めたばかりの弟の恋人。そんな人に家族や、自分の店の事を言われるのは迷惑ではないか。そう思った。月夜の性格からして、拒絶したり怒ったりはしないだろうと思っていたが、嫌な顔はされると思っていた。けれど、月夜はとても優しい表情を見せてくれた。
それが、彩華には安心しつつも、申し訳ない気持ちになってしまうのだ。
「いい子なんかじゃないですよ」
「うん?」
「……本当は祈夜くんが好きな子が、また店に来た時に彼と一緒に話をして……もしかして意気投合して、祈夜くんが気になり始めたらどうしようとか、一緒の時間を取られたらどうしようとか……そんな嫉妬心もあるんです。………だから、私はそこまでいい子じゃないです」
「そっか………そうだよね」
月夜は切ない表情を見せた後、カウンター越しに彩華の頭をポンポンと撫でてくれる。彩華は驚いて顔を上げると、月夜は「ありがとう話してくれて」とお礼まで言ってくれた。