俺様紳士と甘えた彼とのハッピーエンドの選び方
「僕も何かしなければいけないと思っていたんだ。けど、ホスト時代を支えてくれた女の子も多いし、お店を改装したりして売り上げを上げたかったのもあって。お客さんが増えるならって多少は目を瞑ってところもあってね。けど、彼女達の行動は日に日にエスカレートしてる。………この間、常連のお客様に言われてしまったよ。「随分、居心地が悪くなったな」ってね」
「そんな………」
月夜は悲しげな顔をしながら、誰もいない店内を見つめる。
そして、懐かしい事を思い出しているのか、目を細めた。
「僕は両親がお客さんと話をしたり、ちょっとした相談をされたり、記念日にこの店を使ってお祝いしてくれたり、そんな温かな店が好きだったよ。きっと、祈夜も同じなんだろうね。無表情で出不精な弟だけど、この店には遊びに来ていたし。だから、変わってしまった事が嫌だったのだろうね」
「………月夜さん……」
「ずっとずっと考えていた事だ。そろそろ動き出さなきゃいせないとは思っていたけど、お客さんが楽しそうにしているのを見ると言えなかった。けど、お怒りの言葉をくれたお客さん、そして彩華ちゃんの言葉を聞いて、今やらなきゃ本当にダメになっちゃうって思ったよ。………だから、今度女の子達に話してみる。すぐにわかってもらえるとは思ってないけど、伝えていくよ」
「………月夜さんのお客さんならわかってくれると思います。月夜さんのお店も大切にしてくれているはずだから」
「……うん、そうだね。さっきの話だけど、男としてはあれぐらいの嫉妬は嬉しいものだよ。だから、気にしないで」
安心した様子で微笑みながらそう言ってくれる月夜を見て、彩華もつい笑顔になる。すると、月夜は「よしっ!じゃあ、これをどうぞ」と、月夜は彩華にお酒を渡す。そして、丁度いい具合に料理も運ばれてきた。
「ありがとう、彩華ちゃん」
「こちらこそ、です」
月夜は自分用にワインを少し注ぐと、彩華の持っていたワイングラスに乾杯をしてくれた。
その後は穏やかな時間が流れる。
きっと、優しい月夜なら大丈夫だろう。そう思っていた。
カランカランッと店のドアが開き、冷たい風が店内に入ってくる。まだ開店前の時間だ。
彩華は不思議に思い、後ろを向く。
すると、そこには以前この店に来ていた、月夜のお客さんである若い女性が数人、険しい表情で立っていた。
突然の来客に、穏やかな時間と美味しいディナーは一時中断となってしまったのだった。